研修医の声

主訴:発熱、腹痛、水様下痢

―――連休明け

一時間置きのdiarrhea, 微熱もまだあり、何かにヒットしたのが濃厚になってくる。腹痛が痛い。

果たして何が原因なのやら、至って安全と言われる馬刺し位しか生ものは検討が付かない。

ひとまずS先生に電話してみよう。

「これは大変だね。無理しないで。救外来る?」

救外という単語が出るのは想定外、もしや思ったより大事なのか...?嘔吐は無いし、口から経口摂取出来ているから脱水も無い。点滴もいらないし、何より選定医療費適用な気がしてならない。

とりあえずこの日は様子を見て自宅療養をしてみた。

―――翌日

熱は落ち着いてきているが、これまでに無い頻度のdiarrheaに面を食らう。朝3時から1時間置きともなれば夜も寝れない。いくら経口摂取できていると言えどもこれはエマージェンシー―――緊急事態だ。

症状のpeakがいつかと言われれば、まさに今だ。原因菌もさっぱり見当がつかない。

脱水は無いように水は取れてはいるが、現病歴は十二分に救外に罹るに相応しい。

再びS先生にお電話を

「救外に来るように」

「わかりました」と二つ返事。

ノータイムで病院に...とはいけません。全身ピンクスウェットでは職質されたことがあるんでした。お着替えお着替え。

待合で呼ばれるのを待っていると外科のO先生が。

点滴必要だったら14ゲージで。早く連絡するように。

うわあああああああああああああああああすみませんすみませんすみませんすみません

点滴、注射は天敵中の天敵です。刺されるのが嫌だから、刺すのも嫌いです。

伊達に小1の時、自家中毒でも点滴を固辞して小児外来2時間逃げ回っていませんよ。めっちゃ嫌いです。(その甲斐あってか翌年持久走2位なりましたけどね。)

せめて22ゲージで。。。。

注射に縮み上がっている内に時間は経っていたようで。

「大丈夫?」

と初期対応して下さったのが救外のお偉い看護師さん。例に漏れず母の知り合いに加えて同郷。神経内科回っている時に色々教えて頂きました。

「お願い痛くしないで、、、、」

私の悲痛な叫びを聞き入れて、「私も昔は痛くて逃げ回ったんですよ」

これは期待できる、これは無痛点滴、無痛採血か...?

私は信用します、ベテランナースは痛くない

私は信用します、ベテランナースはとっても優しい

私は信用します、ベテランナースは白衣を来ている大天使様

そんな私を氷の世界に導く一言、

脱水で血管見えないねぇ、、、

私は耳を疑った、なぜなら私は脱水では間違いなく、ない

確かに症状から、血管が見えないのは脱水が原因と考えるのが普通とは思う。私はdiarrheaが止まらない、だが嘔吐は一切ないのだから経口摂取は十分に出来ている。

出したら出した分以上にスポドリ飲んでいましたから。

故に血管が見えないのは脱水のせいではない。本当の理由は、

「鶴岡の旬の食べ物に舌鼓を打ち続けた半年間の成果が私の右腕に顕著に出ている為、血管が出てこなくなった」

わけです。端的に言えば

「肥えただけ」

です。

肥えて見えないのを、ベテランナースはとっても優しいからぼかして脱水のせいにしてくれたのです。

大丈夫です、私は肥えてると言われても微塵も嫌味に感じません。

なんなら、ずっと注射怖がってますから、それで血管がビビッているのもあるわけです。

結果的にしっかり血管が見える、しっかり刺されると痛いところに、しっかり刺して頂きました。白衣で無くてピンクスクラブだったのだからしょうがない、痛くないのは白衣を着ている時だけです。

私が刺す立場でも全力でごめんなさいと思いながら刺すところですから、刺される痛みを感じながら今まで刺してごめんなさいと患者さんに謝り続けるハルトマン90分。

点滴刺されて心労激しいのも束の間に、続く非情な宣告「筋肉注射」

「なーんだ、上腕か」B肝をイメージしながら、「はいはいー」と余裕を見せていると、

「じゃあおしり出して」

ええええええええええええええええええええええええええ私腕にしかされたことないよー

いつ刺されるかわからない圧倒的不安、そしておしり、おしり、おしり

「お母さんより年上だから、、、許してね」

わけわかんないよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

どういう意図なのか、何を許すのかわかんないよおおおおおおおおおお

若い子よりはおばちゃんに介抱された方がいいのか、よくないのか、、、?

「何事も、経験だからさ」

・・・・・・まあね。いいよ、この際一回くらい刺されてみても。

「おしりの方が、痛くないからさ。」

・・・え、そうなの?

実際、刺されるのは一瞬で、採血なんかよりも針が細かったのでしょう。

そんな痛くなくて、変な汗もすーっと引く。

しかして処置をされる度に一喜一憂させられて患者さんも大変だ。お腹も痛くてdiarrhea、それに腕だおしりだ刺されていたらなかなか落ち着く時間も無い。心を落ち着かせるためにも、たまーに声かけして貰えるだけでも安心できる気がする。

周りの音も妙に気になる。CPA、ドクターヘリ、心静止...私はACLSを終えてはいなかったようです

こんな忙しい時に本当にすみません。。。

喧騒が少し止む。

「よぉ先生、大丈夫か。これ採血結果だ!」

おお、SG先生だ。パワフルで会うだけで元気になれる。やはり荘内病院救急の顔ですね。

「どうだ、大体みんなこの点滴するとよくなるんだ」

確かに、外液、ビタミン、吐き気止めとこれは良くなる要素満載のレシピ。

だが私は言えていない、意外と栄養取れていて、意外と飲めていることを...だが無邪気な先生の顔に泥を塗る分けにはいかない。

「私なんかに高級な点滴を入れて貰って、、、、非常に有難いです。」

心の底から出てきた、素直な気持ちだった。

それからは、疑われる疾患をご教示頂いたり、様々レクチャーをして頂く。

お話上手くて、来月救急回るのが尚更楽しみに。

一通り見て頂いて、臨床診断して頂き今週の戦力外通告が確定...

大したことないと思っていた私も、CRP6.0を見て白旗を挙げました。病棟仕事でこんな上がってたら私はてんやわんやですもん。

志望科は来週までお預けのようですね。外科の先生方ご迷惑をおかけしてすみません。

この日を境にして徐々に快方に向かい始めました。先生に診てもらうというのも精神的にも身体的にも一番の処方箋なのかもしれませんね。O先生の白衣の姿に、F氏のマスク越しの煽り顔を見たところでどこか心も安らぎました。

今年の1年目が2人とも、荘内病院のお世話になってしまうという、リアルに患者さんの気持ちに立って考える経験をしてしまいましたが、気をかけて頂くと言うのは何より心も体も満たされます。

内科を回ってた時に、透析導入に際して「学生さんにもらったの」と患者さんが笑顔で見せてくれた手作りの透析患者さんへの食材の説明書き。

形に残らないものでさえ大きく心に残るのに、形に残る物を頂いたりしたら心に頭により残るでしょう。

こうした形の無いものから、あるものまで気遣いというのは様々あります。

同質の気遣いであってもそれがどれだけ響くかというのは、患者さん次第です。

つまりは、患者さんが満足できるような気遣いは決して手間がかかるようなこととは限らないというわけです。

この意味では患者さんが満足いくような気遣いをする為には、その患者さんのことを十分に理解してあげることが必要でしょう。

別に何度も足を運んだり、長々話を聞いてあげることだけが最上の気遣いとも限らないのです。

激務の中でも、ちょっとした一言、ちょっとした気づき1つで満足させてあげることが出来るのかもしれません。

少なからず神経内科を回っている際に、退院なさる患者さんが主幹さんに一声かけられるだけで大きく表情が和らぐ姿を見ていて、そう実感しました。

注射を私がされる際も、多少笑わせて貰った方が心持ち楽でしたし。

ベテランナースにこそ熟練したコミュニケーションスキルあり

偉くてしゃきしゃきしているおばちゃんを見ると縮み上がってしまう今時の学生さんを見てると、もったいないなと思いますよ。

上の人にこそ無駄絡みすべし、そっちの方が面白い!

・・・おしりは出すのはもうこりごりですが

1年目研修医 佐藤

2018年10月13日

研修医

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