研修医の声
「普通」の言葉遊び
「普通だよ」
こう人に言われた時、「普通って何だよ!!」と感じたことは誰しもあるかと思います。
例えば「あそこのラーメン普通に美味しかったよ」
私もこう言われたら、何も考えず「ああ、美味しいんだ」と思いながら食べに行きますが、言われた通り普通に美味しいと思ったこともあればそうでない時もあったり。
口コミの中でも仲の良い人からのものであれば当たることは多いものの、皆が言ってたことに便乗すると外れのことの方が多い気がする
しかして「ここは中太麺で、スープがあっさり&すっきりめで、魚介系」こう言われればあっ、普通に美味しそうとイメージを持って食べに行けるだろうし、「鶏油が浮いてて、麺が細めでストレート」と言われれば私は普通に美味しくなさそうと感じてしまう
その人のこれまで生きてきた環境なり、好みなりで普通の意味は大きく変わってしまう一例でしょうか。故に気の置けない関係の人との会話でもその人の文化的背景を意識して言葉選びをする、ないしはして貰わないと気持ち良く意思疎通は取れないもの。自分の中の普通と、他者の中の普通は必ず違うもの。
こうした各個人に関する「普通」はどちらかと言えば「一般的」というニュアンスの方が強いでしょうかね。その人の中の物事に対する一般的な見方、考え方が普通と表現される。
おおよそ世間一般が使う普通のニュアンスは、一般的であるものを指していることの方が多いだろう。
その一方で違う意味の普通、すなはち「普遍的」というニュアンスでの普通を使うこともある。
これが医学を学んでいる時に厄介なもので、先生方の診断や治療の方針なんかを聞いて「こうするものなのですか?」と「そういうもんだよ」と返答されることがある。
「と、いいますと?」
と質問をぶつければ、明確な機序が出てきて今後変わりえないだろう普遍的な内容であると回答を頂けることもあれば、経験的に正しいものであり、いろんな考え方があり変わりうる、ないしは変わっていることで医学界隈で一般的な内容であると回答を頂けることも。
「そういうもんだよ」と言われてそのまま真に受けることも多々あるが、有無を言わずにYESと飲み込めばたとえ普通と言われても腑に落ちないことが多いものです。
普通っていう言葉そのものを疑うこともそうだし、その内容さえも疑うことも必要なようです。
しかして、人は普通であることを良しとし、普通で無いことを嫌うもの。
それが普通であるかどうかは良くわからないのだけれど、自分にとって普通で無いのなら、それは得てして居心地が悪い。世間一般の普通に関しても、その価値観に自分が近いのであれば世間がどうも気になってしまう。
近くにいる人であれば尚更、自分の普通に近い方がいいものですよね
小中高大通じて定期的に連絡を取る友達は多くはありませんが、未だに取る友達は皆あまりいないタイプ、私からしたら普通で無くて、話してて全く飽きないタイプです。
中でも中学から仲良しな子でBL好きが居ました。
どうも世間一般からずれている価値観で、初見では8年ぐらいは「えぇっ...」とドン引きしていましたが、最近は慣れてきました。あんだけ楽しそうに話してて語られたら、何が面白くて何がつまらないのかのポイントはつかめるようにはなります、流石に。私は楽しめませんが。
同じ価値観は持てませんが、価値観の理解はできます。少なからず、最近世間で騒がれているLGBTに関しても、メディアを通じて価値観を理解することでより世論も寄っていくような気がします。
その人に世間一般の普通を求める時代は既に終わり、個々人の普通を認め合うdiversityが広く認知されてきています。こういうと、古い世代は自分達が蔑にされているようで不愉快に思うでしょうが、時代が時代ですからね。diversityの中で受け入れてもらうには、自分が受け入れる必要がありますから、なかなか皮肉が効いています。
さて、メディアでLGBTネタが世間でより取り上げられ始めるきっかけとなった、もしくは世論に乗って作られたドラマが昨年春頃に放映された「おっさんずラブ」でしょうか。これこそdiversityだなぁと思いました。
年末一気放送しているのをきっかけにこの三連休で引きこもって、アマプラで一気見しました。いまさらですが。先の知人もやたら推してました(聞き流していましたけど)
めちゃめちゃ面白いですね
男×男でも恋愛ものって成り立つんですね、おっさんが若者にキュンキュンしている構図ですが不思議と嫌悪感が無く、バカにするわけでもなく、普通に面白い恋愛ものとして見れました。
美人さんがどちらも負けるって普通じゃないのに、普通の恋愛ものに見えてしまいます。
何より一話が秀逸で、一話冒頭を見た時点でドラマタイトルを回収、「はいはい、ホモね~」と全く違和感無く受け入れられる作りになっています。
BL本を書いている張本人が勧めるくらいだから、その時点ですぐ見ても良かった...そう後悔するくらい面白かったので早速報告してみようと報告すると
「あれははる×まきだなんて!!!絶対まき×はるじゃないから!!!!世間が間違ってるから!!!!!」
普通に見れば確かにはるまきだが...なぜ世間はまきはるに。確かにそれは同意だが
「しかもあれ、インテリ眼鏡もいるし、オネショタもいるし、幼馴染もいるし全部カバーしてるだんて!!!!」
そういう発想は無かった...
言われてみれば、確かに全方位向けに発信しているから、色んな層の琴線に触れるような作りになってる
ライト層の「普通の」価値観、からヘビー層の「普通の」価値観、などなどターゲットが一つで無いから、見ててサラリと飲み込めるようになっているようです
組み合わせをあらかた網羅することで、視聴者全員に、各人の普通と普通で無いことの価値観の対比をさせる。それもその人の普通を浸食することが無く、「皆が皆、そのままでいい」と優しいお話の為、内容もライトに見やすく仕上がっているのでしょう。ギャグが多めで演技が過剰なのもそれを助長しているように思える、と考察します。
しかして、BL好きな層は組み合わせをそこまで意識してみているのか、と。それが面白みだと語る位ですから言われてみれば当たり前ですが(天井と床で敵わない恋を想像する位ですからね。)
一体その世界との邂逅のルーツは何なのかと問えば、「だいどうじともよーーーーーーーーーー」、カードキャプターさくらだと言う
・・・ゴリッゴリの幼児向けの漫画、アニメですよね。セーラームーンとか、プリキュアとかですよ
どうも全ての組み合わせが網羅されていて、皆が共存できる優しい世界が広がっているようです。
これが放送されていたのって98~99年代ですからね。特別何もしなくても勝手に物事が好転したバブル時代の崩壊から、何をしても上手くいかなく、皆が空虚な自分と向き合っていた自分探し時代ですから。
皆それぞれで、皆楽しくってそれでいいじゃない、ってのが流行る時代は自分探しに疲れた00年代後半くらいでまだまだ先。
時代に反して、カードキャプターさくらは現代に通ずる内容を取り扱っていたわけです。
当時にそうした作品を出し、それが流行り、幼児の趣味趣向に多大に影響を与えるって冷静に考えてとんでもないことですよ。それも時代を先行した内容で、現代の価値観に直結するなんて言えば尚更です。
こう見ると現代のお父さん、お母さんは自分の子供達が見る作品への理解は必要なのかもしれません。それを見て育った世代が20年後にどういう価値観を持つに至る影響を受けるのか、これを考察するのは面白いことでしょう。(ちなみにアニメ史、漫画史からの時代考察を漫画家・山田玲二がしていますが、なかなか面白いのでオススメです。)
さて、ここまでだとただLGBTを社会派ぶったアニメ好きが好き勝手語っただけですが、全くもって他人事ではないだろうというのが私の未来予想図です。
というのも、医師は複数科に跨ってLGBTの方の診療に携わることは間違いないからです。
最近見た1動画あたり50万再生クラスのMTFのyoutuberの動画を見ているところ、性転換手術が保険適応になったりと国としてもマイノリティーへの配慮をしているようで。間違いなく手術機会は増えていきます。
聞いていてビックリしましたが、S状結腸を用いたopeもあるそうです。それもprostaも残存させるとか。
形成外科でそこまでのopeをするとなるとは...全く想像もしていませんでした。というか、消化器も関わっているのですかね。腹部臓器を扱えるのは腹外科だけだと思ってましたから。
現在の需要でもこのレベルであれば、より多い需要があるならば複雑な形成手術も研究されていくのは言うまでもありません。
保険適応ならば、より多くの科が関わってこようとする可能性もありますし、具体的な手術法は知りませんが、形成外科だけに非ず泌尿器科、婦人科、消化器外科も関わり、2期的、3期的なものも出てくるやもしれません。
更には今後外科系医師の専門医取得に関わってくる時代も...これまた0ではありませんよね。
また、外科系だけに非ず内科系、ひいては医療者全般にも関わってくることも言うまでもないでしょう。
戸籍上かつ性転換手術をした人が救急外来に来たとき混乱する可能性は高いと思います。
CTを撮れば外見、性別から普通あるべきものが無く、普通無いはずのものがあるわけですから。
女性なのに前立腺を鑑別しなきゃいけない瞬間、男性なのに子宮・卵巣を鑑別しなきゃいけない瞬間を経験する医師がいるでしょう
フォーレを入れるにしても普通にいれていいものかどうか
今後の動向によってはしっかりと勉強して対応する必要があるやもしれません
他人事だけど他人事ではないことが普通なことがあるのが医療業界ですからね
以上、普通という言葉で言葉遊びをしてみました。
こればっかりは全くもって鶴岡感無いですけど...こういうことしないのが普通なとこですから、これまたdiversityってことでどうでしょう?
1年目研修医 佐藤
2019年01月13日