研修医の声

帰すか帰さざるか

ERに来る患者さんが何を考えてくるのか

苦しいから?はたまた不安だから?入院したいから?入院したくない?

ER診療の場数をこなす上で私が新たに悩みとして抱くようになったのが、患者さんと協力して医学的にも患者本人としても妥協できるゴールを探すことが難しいこと

デカい病院みたいに来る症例全てが死にそうな病気で入院確実、検査もフルコースで出来るのとは違う

患者さんの重症度が全く持ってバラバラで、ここで見逃したら最後その患者さんは最悪死ぬかもしれない

その割に、不安だからと言って全例入院させるわけにはいかず、お家で様子を見れるならば帰れるようにしていかないと病院も疲弊し地域医療の崩壊が加速化する

それ故に判断にプレッシャーがつきもので、そのために帰せる基準、返せない基準を見定める力が重要となってくる

これがなかなかに難しい

元から入院して治療をしなければいけない患者さんしかこないのならば勉強する内容も、適当な本さえ読んでいればいい

一目ヤバい、と思えるような患者さんであればもう入院するしかない訳で気が楽、今すぐ死にそうな状態を回避しつつ担当の先生を呼べばそれまで

研修医目線でのむずかしさはむしろ、入院させるかさせないかのところ

当院の一泊ナイト入院のシステムはこの意味では非常に市民のニーズに即していて、帰すか帰せいかといえば帰せなそうな患者さんを拾い上げる

だがそれよりも難しいのが、明らかに帰せそうだけど、ICがイマイチ上手くいっていない場合

医学的に大丈夫ですよ、と伝えるのも微妙な状況であればあるほど難しい

「せっかく病院に来たのに」

いくら丁寧に説明をされても何も処方されず、明日専門家受診して下さいね、と言われてすんなり理解できる患者さんばかりでもない

その際に例えば入院するならば具体的に何日間入院してどういう治療をして~まで知らないと言葉に説得力が無い

一通りの科をローテートすることで、現実に行われる医療を知れれば、「別に家で見るのと変わんないです。それでも入院をしますか」と本人に入院の意思決定を促すことが出来る

しかして現実を知ったうえで、適切に患者さんに現在選べる択を提示し、その択一つ一つを説明できるかは説明の方法を理解していなければわからないというのが本音

説明のやり方もある程度テンプレがあり、聞き手がつまづくポイントが決まっている

それは理解していたとしても、これまで入院が必須のはずの病気で、中でも入院が不必要な状態の場合に説明するのが本当に難しい

上級医にそれで釘を刺して頂いたことがあるが、それでも釘を刺して頂けなければ得られない考え方も多くある

こうした考え方一つ、視点一つを知れれば他疾患にも応用できるし、応用する思考過程もまた振り返れば新たな発見にもつながる

ゴリゴリにお金をかけて何から何まで検査して入院して大した治療もせずに患者さんの時間とお金を奪うのはサービス業に置いては最悪に近い

やるならば誰も損せず皆が納得するような選択をしていきたいものだ

中でもその選択に最も寄与するであろう能力は超一級の診断能力よりも、超一級のコミュニケーション能力だろう

私が吸収すべきは上級医のトークスキル

ERに出れば出るほど、経験のある先生の言葉ははっきりとわかりやすく、それでいて深みがある

言い方や表現をそのままパクって使ってはいるけれど、最終的には自分なりの言葉や芸風を見つけていかねばならない

より多くの人を相手に、より多くの人に納得されるような説明を

医学的知識とコミュニケーションスキルが有機的に繋がるその時...本当に人を診れていると言えるだろうその時を夢見て、日々の診療に没頭していきたいですが、先が長いですね

精進、精進です

二年目研修医 佐藤

2019年05月11日

研修医

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