研修医の声
8東大忘年会② それはズルい
プレメジ
ーー前投薬;premedication プレメディ(ぷれめでぃ)とは、検査や手術に対する不安・緊張を除去したり、より大きな麻酔効果を得たりするために、検査や手術の前に患者に薬を投与することである。
中堅どころの看護師さん、綺麗なお姉さま方に「みんなプレメジやろう!」とお声がけ頂いた我々研修医陣
「いや、うちら本番あるんでノンアルで」
かなりストイックに、我々はプレメジ部屋から自分の部屋へと場所を移し、チューニングを始める
フルート、ベース、ギター、キーボード、ハーモニカ、鍵盤ハーモニカ、タンバリン、マラカス、リコーダー、ボーカル
自分の調子を徐々に上げていく
合わせの練習は要らない、僕らは心で繋がっているのだから
ミスもするわけがない、個人練習をあれだけしてきたのだから
自信を持っていこう、そう話し合いながら、ギターとキーボードは終始どぶろっくのネタの練習をしていた
「やりてぇ、、、」
SSKは関西人の血が騒いでしまっているようだ
大きなイチジクをくださいだっけ?掛け合いは十分だが、歌詞が覚えられないよう
Yはコード進行が気に入ってほかのことが手につかないようだ
そのわきでリコーダー陣は完璧なハモリを見せつける
「余裕っすよ」
マイペースで自信家なKY
「もっと練習します」
たぶん一番練習に時間を割いただろうIは、常に前向きだった
紅、Fは楽器慣れしているから問題なさそう
かくいう私は、自分の楽器の調整が出来ないでいた
それでも私は自信がある、声量ならたぶん戦えるはずだから
ーーーー
会場はよくある和室で、音の響きが悪そうだった
少しこれだと...と不安も隠し切れないが、私の楽器はワイヤレスであることを確認し少し安心
そうして宴会は始まる
かつていた外科の看護師さんも含めた、8東大忘年会だ
乾杯の発生から程なくして、上めの世代のドクター、ナースがいなくなる
上・・・?
余興はーーーおばちゃん、おじちゃんたちから始まる
出オチ上等、ルックス勝負のパワープレー
・・・・まさか、だった
踊りをすると思いきや、それさえもアドリブ
何ともなしにただぱやぱやする、普段ではありえないルックスの御偉い型
いつも尊敬しているボスと、主幹さん一行がまさかこんな体の張り方をするとは...
極めて反則である。服装だけで五分以上勝負するとは忘年会という場を確実に熟知している
そこで私は確信した、やらねばやられる、と
この場では綺麗なネタでは戦えない、意外性を押し通せねば勝てないのだ
彼らに勝つには、ボス、主幹さんを巻き込まねばならない
この考えに至るのはいわば必然、失礼であることこそがステイタスなのだ
ネタをその場で考え直そうとするうちに、次の軍勢が現れる
若手世代のドクター、ナース
こちらは学ラン、セーラー服に扮しきゃぴきゃぴな感じで踊るというもの
「若手」だから踊りは仕込んできてるし、性別逆転で攻めてきたものだ
学ランに扮したナースは単純に可愛い、セーラー服に扮したドクター、ナースは二極化
元からかわいい先生はさらにかわいくなるし、ひげが濃い先生はビジュアルがヤバイ
視覚的に濃淡を顕著にすることで、誰かしら目に留まるような布陣に
可愛い方を見ればヒゲが気になり、すね毛が気になればおみ足が気になる
すね毛を沿ってるお前は誰だ?なんだ、沼か
正統派の戦い方、これは強い
「ビジュアル系」の戦い方で攻めをつなぐ8東陣
我々研修医陣を本気でつぶしに来てるようだ、負けらんねぇ
・・・この強がりも、次のネタで叩き潰されることになるとはな
四国よりはるか遠きこの鶴岡で再会した同級生コンビが、悠久の時を経て最初で最後のネタをぶちこんでくる
TT兄弟
回診時、という設定で「全力でやり続ける」のだ
いい大人二人が
しかもネタが全部面白い...
H氏をして、「ずっと医局でさぁ、言ってくるんよ。〇〇で〇〇でTってよくない??って。いいよって言い続けたらネタ出来た」というほど。Tの本気度がずっと強襲してくる
文脈的にも完成されていて、最後の落ちも...
最高のエンターテイメントだった
そして次は我々の番だったが...どうもみんな様子がおかしい
笑いの熱が冷めやらぬうちに、早く続けてやりたい私とは裏腹に、固くなっていた
もう10分は経過している
余裕があったはずのフルート、バイオリンは繰り返し練習をしている
リコーダーは「ヤバイヤバイヤバイヤバイ」
KYは「忘れた、忘れた、忘れた・・・・・・・・」
いくら何でもどうしたお前
ベースとキーボードは「大きなイチジクを~♪」
...お前ら、たぶんそれは、今ではない
練習したって無駄だから、早く行こうぜ。なんとかなっから!!!!
皆時間が経っていることに気付けていない
我に返ったようだったが...あれだけ自信満々だった我々を砕くほどの破壊力があったということか
TT兄弟強し
会場に楽器を搬入し、所定位置につく
どうもマイクの入りが悪いようで...私の武器が一つ失われた
小学校の発表会を意識した入りでお母さん世代を掴んだ後、ツインリコーダーのリードが入る
KY「僕らが大サビパート吹き終わったら、無理やり盛り上げてください」
不安だったんだろう。しかし心配しなさんな。
私が使う楽器はタンバリン一つのみの理由...それはやる仕事はタンバリン、MC(master of ceremonies)、煽り、ボーカル、タンバリンと最多だからだ
2人のハモリが綺麗に決まった直後、会場はわっと沸く
ホットしたKYとIの表情を横目に、ベースのYに目配せする
確かに口元が少し緩んでいた。彼もまた、今を楽しんでいる。
四拍続けるタッピングが始まりの合図
みなが四拍目を今か今かと待ちわびる
誰もが耳にしたことがあるベース音が、「明日があるさ」のそれをなぞる
我々流のGoose houseが今始まる
明日に続くさ
2年目研修医 佐藤
2019年12月20日