研修医の声
女の子はみんな甘いもの好き
ユタリハ研修もそろそろ終わりを迎えようとしている今日この頃、ここの良さがばっちりわかりきってきました
というのもこの病院、鶴岡市民にとっての最期の救済の役割を果たしているんです
えっ?それって荘内病院じゃないの?何せ急性期じゃない?
と思われるかもしれませんが、決してそうとも限らない
科によってはユタリハに送られてくる時点で情報不足、加えて荘内病院にいる時では気付けない日常生活に帰った時に生じる問題点を抱えている患者さんがちらほらいるんですよ
荘内病院の仕事はいうなれば、病気でない体にする医療
その後の回復期、慢性期は、可能な限り元気な体にするor上手く病気と付き合える体にする医療
ニュアンスが全く異なりますよね
荘内病院で研修しているうちはフォーカスが当てられるのが鑑別、治療ですから「今強い選択肢」を切る為の問診と想像力が求められますから、ぶっちゃけADLとか生活歴とか嗜好歴とかそこまで気にしなくても問題ないわけです
内服歴と既往歴もそこまで洗わなくても問題にはなりにくいですからね
ただユタリハだと家に帰った時のことをじっくり考えるわけですから、帰る先はどこなのか、移動手段は車か自転車か、転倒リスクを考えたら現在の内服でいいのか、ポリファーマシーじゃないか、とか何から何までがフォーカスになります
いくら既往歴を洗っても使っている理由が分からない謎の使用用途の薬剤も入院してすぐに見つけて、理由がないなら切ろう、あるならば情報提供を、という風に漫然とした一剤さえも見逃しません
おうちに帰ってからも問題なく過ごせるように事前に家庭訪問をしたり、メディカルソーシャルワーカー、PT、OT、ST、Ns、栄養士、Drで何度もカンファを行います
考えられる限りで不安を取り除いた上で退院できるように全力を尽くすわけです
ユタリハを介せば全部綺麗な状況でおうちに帰れる
そんな夢のような場所ですよ、ここは
おおよそ荘内病院からの転院先の病院のほとんどがこのように何から何まで考えて患者さんの為に最善を尽くせるようにと工夫しているんだと思います
ユタリハしかり協立しかり余目しかり(あと思いつかずすいません)、強力なバックアップがあるからこそ急性期病院としての役割を果たせるんだとしみじみ思うところです
こう書くと私がユタリハで見えている世界はバカンスというよりは、優しい世界、素直になれる世界ですから天国(ヘブン)と書いた方がいいところでしょう
検食も美味しいですからね、ここ。味付けしっかりしてるし。なおさら天国だ
天国には天使がいるってんで、天使の素敵なお話を
ーーーー多職種カンファでのワンシーン
患者さんは80オーバー
認知症が強くて易怒性あり、夕になるとソワソワおちつかない
リハビリにも協力的だったり非協力的だったり、少しずつは良くなってきているんだけど...
「先生最近ごはんを食べてくれません」
院長先生に看護師さんが声を掛けます
「それはいつから、どれぐらい?」
具体的な話を求めます
少し口調が強めで、諭すような感じでした
言葉に詰まる看護師さん「・・・・・・」無言の内にも心中お察しします。なんで早く言わなかったんだろう。そう心の中で反芻させている様子です。
「リハビリ病院でごはんを食べられないなんてダメだろ。リハビリなんだから。普通に暮らせるように、ごはんは大事だろ。それなのになんだよ、だめだろ??」
リハビリをしている病院だけにプライドがある。ごはんは食べなきゃダメだろって当たり前なことですが、先生が言うと言葉の重みが違います。
言葉の裏には限りなく日常に近い生活を入院中から送らせて、一日でも早く日常へと回復させる
その為に入院しており、そのために患者さんも頑張っているんだから医療者が手を打つのが遅いのはナンセンスだろ
そんな主旨に聞こえました
「ところで、何食べてんだ?」
「それが、ごはんを全然食べなくて、おかずをちょっぴりぐらいです」
「そうか。じゃあアンパンだ。アンパン食わせろ。」
「・・・えっ?アンパン?」
思わず横から突っ込んでしまった。
「そうだ。アンパンだ。女の子は甘いもの好きだからな。」
先生、流石にそれは雑じゃないです?アンパン食わせときゃ大丈夫って、それほんとに女の子ですよ。
年齢層的には幼稚園~小学校4年生ぐらいまでの女の子ですよ。この人80のバァさん...
「おい、アンパン食わせたのか?」
「パンは食べさせては見たんですけど食べなくて...」
「それアンパンじゃねえだろ。アンパン食わせろ、アンパン。」
...アンパンそんな押す?そんなにアンパンいいの?
「それか饅頭、ようかんも可。買ってこさせよう。女の子は甘いもの好きだからな。」
「そういえばこの前みんなでおはぎ作った時に、食べたいって2個も平らげてました!」
「そうだろ。だからアンパンだ、アンパン!!!あとあれだ、この年代は梅干しも好きだから梅干しもつけろ。」
先生ついにボロ出しましたね。女の子は甘いもの好きでも、梅干しは好きとは限りません
それ「ババア」です。女の子ではなくて「ババア」です。
更に言えば「ジジババ」の好物です、それ
「そういやアンパンめっちゃおいしそうに食べますよね。これどこの?木村屋?」
まだアンパンの話続く...ソーシャルワーカーさんも参戦
「パルで売ってる、ヤマザキの五個入りのアンパンです」
パルかいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
工夫のかけらもないんかいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい栄養士さんぶっちゃけすぎだろって
一瞬A&B思い出して、「まさか栄養士さんが戦争から奪い取ってきたものなのか?」なんてくだらないこと考えてしまったじゃないか
かくして、ヤマザキのアンパンが食事につくことになった「女の子」
翌日の食べ具合はどうだったかというと、アンパン完食
翌日にご家族が持ってきてくれた梅干しでごはんも進んだそうです
「いらね、やんだ。こげだな。」
とずっと要らない要らない言いながらも食べ続けていたと
「この世代」の女の子には効果テキメンのようですね
認知機能が、高次機能全体がそれを拒もうとしても「女の子」の本能に訴えかければ勝てませんから
一連の食べました報告を受けた院長先生は少し得意げに。
「ほら。女の子は甘いもの好きなんだよ」
にへらっと少し崩した表情はまさしく無邪気な「男の子」そのものでした
甘いものってみんな幸せになれていいですね!
・・・糖尿病は怖いですけど
2年目研修医 佐藤
PS
ユタリハでは80歳以下は若者に見えてくる不思議
ICでも「まだ若いんだから」が75、76で聞かれます
高齢者医療奥深し...
2019年12月24日