研修医の声

はやり

この時期これでもかってくらい「流行るかぜ」があるのをみなさんご存じだろうか。

「かぜ」と表現するのはいささか軽視しすぎか、症状は通常の風邪より激烈だし、患者さんの訴えも非常に強い。

薬なんでもくださいよとせかす患者さんから、前になったことがあった経験から1秒でも早く帰りたい、タミフルとカロナールだけくれという患者さんもいる。

倦怠感、発熱、感冒症状に始まり人によっては消化器症状も催す。

そう、インフルエンザだ。

100人の医療関係者がいたら、偏屈な5人ぐらいを除いてほぼ全員がそういうだろう。(その偏屈な5人は風邪と呼ぶな、重症なんだから呼ぶこと自体間違っていると言葉遊びをしたがっているに違いない。)

この時期に同様の症状で来て鑑別に上げる疾患があるとすれば、「やたら強い空嗽」が追加されてマイコプラズマや、「2週以上長く発熱が続いた」血液疾患などだろうが、そんな問いを今この時期の医学部6年生たちに投げかけてみれば、えらい集中砲火を浴びることだろう。

それぐらい倦怠感、発熱、感冒症状を見たらインフルエンザなのだ。

---

さて、かくいう私もこのインフルエンザに幾度か直撃しているのだが、対応に慣れてしまったものだ。

言ってしまえば初日が辛いだけの、38℃ギリギリいかない風邪なのだから、いつもより多めの食事を取って気持ち悪くなるくらいお茶とスポーツドリンクを飲む。

間食も欠かせない、とりあえずは何でも食べる。

多めにもらったアセトアミノフェンは、とかく乱用する。かぜやインフルには基本頓服だろうが、4~6時間ごと定期で服用する。

飲みすぎたって問題ない、だって痛み止めで1000mg点滴静注するんだもの。

※ こればっかりは完全に自己責任だ。肝障害は代表的な合併症。しばしば入院患者さんでいるので皆さんは真似しないように。

苦しいのは最初の一日目だけだからとりあえずなるたけ楽に乗り切れるように上記のように対処する。するとどうだろう、二日目からはただの休日だ。

・・・退屈で困ったものだ。学校保健安全法が、ここにきて重しになる。発症した後5日経過かつ、解熱2日(幼児は3日)経過するまでは自宅謹慎処分だ。

こんな退屈なお休み誰が望むのだか...ただでさえ診療している側もつまらないのに、診断されている側もつまらないとなればもう人類の敵だぞインフルエンザ

もう大嫌いだよインフルエンザ

しかし、人というのは面白いもので、嫌いなものほど興味が沸く

そうして最終的には好きになってしまうものなのだ。

ということで、憎きインフルエンザを調べ学習するにあたり、私の胸が躍ったインフルエンザの面白いところをまとめていこうと思います。

①潜伏期間は1-7日

医学生御用達で内科専門医試験でも使われるイヤーノート、私がERで重宝する困ったときのエビデンス・内科診断リファレンス、トリアージシートを見ながら想定疾患をすべて復習してから診察するのに欠かせない・小児科ファーストタッチでは1-5日もしくは1-3日と記載されているが体感的には長めな気がする。

調べてみれば

新型インフルエンザ発生時に企業に必要な 感染対策に関する意思決定とそのための情報

イ ン フル エ ンザ の潜 伏 期 に 関 す る疫 学 的研 究

には最長7日と。わけわからん統計処理したのが後者ではあるのだけれど幾分古すぎて実際はどうなんだろうか...

②発症の定義は発熱だけではない。インフルエンザ様症状

調べて初めてわかったのがこれ。いろいろ文献を見てみるとどこも発熱とは定義していない

またここが私が体感的にもっと長いんじゃないか、と疑問に思っていた理由の一つ。「まさか単なる発熱なわけないよな」、と疑問に思っていたところ。

自身のケースとして、

DAY1 PM 20:00 ぼーっとする感じ、いつもより鼻水出るかなぁ...?ただ外にいるからかもしれないし...。

DAY2 AM6:00 倦怠感。体温36.5℃ AM8:00 37.0 ℃ AM10:00 倦怠感、ぼーっと、37.0 ℃と過去に味わったインフル感 (←このタイミングで受診、迅速A+)

    PM 6:00 37.8 ℃

であり、初期症状として発熱が先行しなかった。

内科診断リファレンスを見れば単体としての陽性尤度比は咳、倦怠感、頭痛、鼻閉、寒気は大差なく1.0程度。熱でも1.8なのだから使えるほどの症候ではない。

前述のN=1のセルフ症例報告を見れば、熱が出るまで、と取るならばラグが1日近くある。

もし「ぼーっと感」が最速の先行症状とするならば受診時には12時間が経過しており迅速検査で引っ掛けられた可能性も示唆される。

何度もなったことがある私だからこその感覚であり、みんながみんなそうじゃないから決して断言はしないがぼーっとする感じや、過去の感染歴に似た症状(けだるい感じ)があるならば、患者本人の「インフルエンザ感」、複数のインフルエンザ的症候があればそれは「インフルエンザかな...?」と考えたほうがいいのかもしれない。

というのも症候単体では時期が違えば的外れだし、幾分ほかの疾患との鑑別が困難となるので、その患者の数日以内の接触歴を見て「8割型インフルエンザだ」と当たりをつけるぐらいの感覚ではあるのだが。

多少弱気なのは、見た目からしてインフルエンザであっても抗原検査陰性もあるし、症状も人それぞれだし、何なら何もしなくても放置で勝手に治ってしまう病気。

不顕性感染も多くいて、発症者のみが受診してそれに対して治療するものだから、大したことない症状で抗原陰性ならばそれなりの対応で二次感染の予防だけ指導すればそれまでなようにも思う。

こう言ってしまうのもこれまた微妙な場面を経験してしまってるからに他ならないのだが...

③ワクチンは運ゲー

内科診断リファレンスによれば、ワクチンが当たれば70-90%の予防率、外れれば0-50%

もう運ゲーですよこんなの

良くて70%なんて全然じゃないですか。95%なら信じれるよそりゃ。20年に1回だもの。

ただ70%なら3年に1回はかかるような頻度なのだから、2年ワクチン効いて「ああよかった。ワクチンしてたからだなぁ」なんて油断してたら翌年かかりうるってわけだ。

つまりは正しい反応としては2年かからなかったら「やべえ2年もかからなかったから来年くるじゃん、ああ怖い、発熱全身倦怠感...」と恐れおののくべきだ。

そしてかかったとしよう。

「ああ、三年周期だとして今回かかったから来年は大丈夫だろう。気持ち的には来年は引かない。」

そんなことを言ってると翌年ワクチン外れ年に当たってがっつり発熱、全身倦怠感。

もうこうなれば、何も信じれない。

一度かかってしまえば毎年かかるような気がしてくる。

そしてそのたびごとに無理やり五日間の冬休みを命じられる。

・・・最悪じゃないかこんなもの。小学生かよ毎年冬休みもらえるなんて。

ワクチンはギャンブルだよ本当に。いやしないとダメなんですよ、集団免疫とか、高齢者は死亡率下がるとかデータはあるし。

ただ心象的に...ね?やらないとなったとき辛いし、やったらなんかかかりそうな気がするし。負のループだ。

あらみなさん少しずつ不安になってきましたか?一度でもなったあなた、もう心配で夜も眠れないんじゃないですか?

安心してください

国立感染症研究所にインフルエンザワクチンの説明が

「ワクチン接種者100人のうち75人が発症しない」ということではなく、「ワクチン接種を受けずに発症した人の75%は、接種を受けていれば発症を免れた」

と。

・・・そりゃそうですよ、仮に言葉通りであれば最低でも年間2500万人がインフルエンザかかりことになりますからね。

ワクチンを接種してインフルエンザに罹った人はそもそもその年に感染、発症する運命にあったわけで、その運命をワクチンでは変えられなかったということです。

...まあなったらなったでそう簡単には納得できるわけではないものですがね。

考え方はまたいろいろあるとは思いますが、私の解釈では二度抽選の機会が受けられるということです。

つまりはインフルエンザの時期になれば、「インフルエンザになりますグループ」に最初にふるいをかけられて、そこから「ワクチンをしていたので発症を免除しましょうグループ」と「残念ながらワクチンは意味なかったので発症してくださいグループ」と「ワクチンしていないなら発症しても文句は言えませんグループ」に分けられるということです。

そもそもなりますグループに振り分けられること自体日本国民全体から見れば少数派、更にその中にいてワクチンさえしていればさらに発症してくださいグループに入るのは少数派になるわけですから、よっぽど競争力が強くないと発症しないわけです。

もしワクチンをしていても発症したとするならば、よっぽど感染者がいる環境で戦い抜いてきたのか、思いのほか免疫が落ちるほどの生活をしていたのか、ワクチン接種の仕方が甘かったのかだ。

大概、しょうがない。

しかしてワクチンをしているからこその弊害もあるようで

④ワクチン接種者では診断が困難になる

実際私もそうで、ワクチンしてるのに何でなるのという気持ちもありつつ、「この症状でインフルなわけないでしょう」とタカをくくっていた。

内科診断リファレンスによれば、流行期に発熱、筋肉痛がなくとも10-15%で感染あり、という報告があったとのこと。

症状の顕在化や重症化しないまでも罹ってしまえばそれはもう立派なインフル。ただインフルと疑おうにも典型症候が無く、ワクチンもしてるとなれば医師側も「ワクチンもしてるし、かぜじゃないの?」と思いたくなる、というより琴線に触れない。

ワクチン接種歴があったとしても流行期かつ接触歴があれば、単なる「風邪?」でもインフルを確実に探すなら迅速抗原した方がいいのかもしれない。

...症候学どこいったって話ですが。

ただどこまで探しに行くか問題、人によって大きく意見が分かれるところでしょうが。個人的にはADL、基礎疾患、生活歴、同居人の年齢を見て重症化リスクの評価が重要かと考えます。

⑤なぜ全身症状が出るのか

倦怠感や関節痛が強く出る理由がイマイチわからないなぁと。ただの上気道炎ではないのかと。

勿論38℃近くまで行けば、それだけでだるいからって説明がつくのだけれどもしかして何かあるのでは?と調べてみました。

重症化機序は明らかにされているようで、

「インフルエンザ-サイトカイン-プロテアーゼ」サイクルと「代謝破綻-サイトカイン」 サイクルが,サイトカインを接点に共役することで重症化が進む

きっとこれがうまいことあーなって...バカさらすんでやめましょう

⑥A型なら発症6時間から十分当たる

インフルエンザ診断と治療

総説見る限り6-12hで感度十分ですからね。いろんな医師のブログ読んでみても6時間経てば勝負していいよ~との記載もちらほら

しかしB型は探すのが難しいようですね。確かにあんまり見たことない。

⑦ノイラミニダーゼ阻害薬は症状が無くなるまでの期間が一日短縮される

使ったからって別に特効薬で一瞬で治るものでもないし、それこそ人によって熱が1日で終わる人、3日続く人、二峰性の発熱がある人など様々ですから

というか二峰性の発熱は知りませんでした、自分に経験ないとなかなか頭に入らない...。

しかしどの病気もそうですけど薬を飲んでればなんでも治るなんてものはないから、しっかり栄養とってしっかり休んで自分の身体が治ろうと頑張っているのを邪魔しないことが重要なんでしょうね。

それこそインフルエンザに関してはタミフルを処方して「一日でも早く良くなりますように」という積極治療派と、「ただの風邪なんだから何にもしなくていい。」という自然派に分かれるのも今回のブログやらなにやらまで調べてわかったことです。

いろいろ思うところはありましたが...スタンダードにやりたいので私は処方したい派ですけどね。

やっぱりなると辛いですから。しかも思ったより効いてる気がします。プラセボかもしれませんが。

しかし熱さえ取れれば結構元気なりますからね、アセトアミノフェンが最強だと思います。勿論これは元も子もないです。

以上私が調べた面白いインフルエンザのまとめでした

PS 昨年一年目がまとめてくれたインフルエンザの勉強会におおよそ書いてあったことかと思います。すっかり忘れて、すっかり調べて、すっかり楽しめてしまう私は幸せなのか、それとも不幸せなのか、評価が分かれるところでしょうか。ちなみに、私は二度楽しめて幸せでした。

2年目研修医 佐藤

2020年01月06日

研修医

このページの先頭へ戻る