研修医の声
夢破れて山河あり
最近ハマっている漫画でマガジンのブルーロックってのがあるんですが、名言製造機のサッカー漫画なんですよ
ざっくりあらすじを言えば、
最強のフォワードを作るために高校生の才能ある若者を閉じ込めて、ただひたすらに戦わせ続ける
その中でエゴイストで強い選手を作り日本代表にする
みたいな、みんなで勝とうよスポ根漫画、みたいなごくごく普通の一般漫画とは一線を画す作品。
とことん自分を切り詰めていくことが大事としていて、如何にエゴイストに強くなれるか、自分の強みは何なのかを追い求めていくわけです。
中でも自分のことだけ考え続ける、まったく負けない勝者を作るわけではなくて、しっかりと敗けられる人間が強いと敗北の重要性を説いた解がありまして、敗北をし挫折を覚えたときの姿勢として「これまでの自分のやり方に絶望し、自分の非力さを痛感することを通じてそれまでの自分を諦め、他のやり方で以て新たな自分を構築しなければ成長は見込めない」と断言しているんですね。
非常に臭い話ではあるんですけれども、まさしくその通りだなぁと実感することが多々あります。
何かやらかした時に自分を全否定することでしか見えない世界観、考え方がありますし、自分の理想像がより現実的に見えてくることってありますからね。
少なからず失敗は成功以上に有意義で面白いと感じますが、人に批判されたり自分がバカにされることを嫌がる人がほとんどでしょう(私は真っ向から戦いに行きたくなりますが。)
失敗と成功が自分にとって同じぐらい有意義であったとしても、それぞれにリスクが課せられていることもまた事実かと思います。また成功と失敗の単純な二つの結果だけではなく、その中間やそれぞれに尺度があり受け取る側によって大きく異なるのもまた事実かと思います。
例えば何か選択肢が目の前にある時に、片方は失敗もあるが成功したらデカいもの、片方は成功は無いけど失敗でもなさそうな置きにいくもの、の二択しかない、いわば微妙な選択が迫られたときなんてのはままありますよね。現実には必ず成功する択と、必ず失敗する択のような明瞭な選択肢が並ぶことってまずないわけで。苦しい中から苦しいものを選び、その結果に一喜一憂しているものです。
研修医室でダベっていると、そうした微妙な二択でやらかしたみたいな話をたびたび聞きます。
・救急で人間関係トラブルに見舞われた
・変な人に絡まれた
・変な人に捕まった
・異性関係で微妙な場面に遭遇した、または微妙な場面を作ってしまった
・三年目でどこを選ぶか迷ってる
・上級医との関係性が...
・飲み屋どこ行くか迷っている etc...
どうも聞いていると、やらかし話の大半は「成功は無いけど失敗でもなさそうな置きにいくもの」を選んでやられたケース。積極的な成功を求めて選んだ選択肢には、どうもつまらない結果はついてこないような印象を受けます。
というのも、得られるものが乏しい置きに行くような選択肢を選んでると、将来後悔すると思うんですよね。やっぱり強気に失敗もあるが大成功がありそうなところを、自分の領分を超えてでもせめていった方が強烈な失敗経験を得た時でもいいことが待ってるようですから(漫画によると)
攻めない人生なんて全くつまんないですからね。攻めたら攻めただけ、ついてくるものがあります。
でも攻め方っていうのもいろいろあると思うんですよ。単に成功を得るとしても、短期的に成功できる選択肢を取る劇場型を目指して選択するのか、長期的に成功が見込める選択肢を目指して選択するのか。
短期で分かるようなものならば、失敗しても即後悔できるからいいですが、長期のものだと失敗したと思う時間がどれほど続くか、成功がいつ訪れるかわからない意味でその人間の素質が問われるところだと思います。
最近、その時点で一番無難な、置きにいく選択肢を取ることの方が5年後に笑顔になれるんじゃないかと思うことがしばしばあります。
この「置きにいく」というのは、長期的意味で成功を得られる、短期的には成功が見込めないものの長期的には成功が見込める可能性がある、積極性が高いがリスクを伴うという結果が後からくる選択です。
性格的に今楽しいよりも、未来に楽しみが待ってるほうが頑張れるし、成功する日が来るまではいくらやらかしてもそれさえ楽しく思えてしまいます。
研修医室で将来の夢を発表し合うと、
・仕事を辞めて主夫になる
・ラーメン屋になる
・神経学を極めて、科学的に最善の日本料理を提供する
・いい結婚をする
・お花屋さんになる
などなど、全く無関係な言葉がちらつきます。オーベン世代の先生でも、仕事が好きすぎてしょうがない人がいる一方で、仕事も好きだけどおもちゃ屋を開きたい、と呟く方もいるぐらいです。実際、いつかやめることも考えながら、ゆっくりできるその日に最高に幸せに感じれるように仕事を頑張る、それぐらいの気持ちでないと大変な仕事なんだなぁとたびたび思うところです。
私も日々、女医か薬剤師と結婚して仕事を辞める夢の為に、頑張ろうと思っています。仕事を辞める時に、「やり切った、もうやりたくないし満足だ」と思えるその時に、最上の幸せを感じれるのを楽しみにしています。(だが実際は、やめようと思えるほどに満足できないと思いますが)
その夢の第一歩として、県内で一番医者がいる医療機関で後期研修を始めることとしたのですが、Hにこう言われました
「大学研修医結婚ラッシュだよ」
そりゃそうだ、私がこう思うくらいなら、私以外にもこう思う人がおおいに決まってる。安定しているようで、決まった場所に着けない不安定かつ身を切り売りするような仕事だ。医者同士結婚すれば、お互いを理解し合いながらキャリアを築ける。あまりにも当たり前で、第2次結婚ラッシュとも称されるシーズンである由来そのものだ。卒業間近、研修医終了間近はそういったシーズン。
昨今の晩婚化はどこにいったものか、女医はモテる。加えて県内は医師不足、数がそもそも乏しいのだ。
対して出会いを求めて関東に行く人間もいるほどだし、私は選択を間違えたか...?正解は仕事辞めるなら、たくさん仕事にあふれた地域に行くのが至極まっとうであったのかもしれない。
5年目までは修行僧なり。邪念があるならば全て捨てよ。自らのすべての時間、すべての信念は自らを磨くために使うべし。
オーベンの言葉が、あたかも当たり前にあったかのように私の身を包み込む。
たった一言によって砕かれた私のハートは、たった一言によってふたたび強靭によみがえる。我はこれより、修羅の道に入る。そう、私は来年から外科医としてのメインストリームに身を投ずるのだ。
新たに見える激務の中に、私はきっとこれまで見えなかった豊かな世界観が開けることであろう。いずれにせよ、楽しみは一つ減ったが、楽しみはまだまだあるわけだ。
またたく間の手のひら返し、どうも私にはなんでもかんでもすぐに悲観し絶望し、すぐに立ち直れる才能があるらしい。
さすがにこの才能を以てさえすれば...夢をかなえるのはお花屋さんよりもずっと早い気がする。
以上、特に中身のない、ブルーロックの感想文でありました。
2年目研修医 佐藤
2020年02月14日