院長挨拶
院長挨拶
2019年12月からの新型コロナウイルス感染症は、全国的な流行もようやく落ち着きを見せ始めています。2023年5月に、感染症法上5類への移行に伴い、感染対策もかなりの程度まで緩和されるようになってきました。いよいよwithコロナ時代の幕開けです。
一方、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻からすでに2年以上を経過していますが、いまだ戦争の収束が見えません。また、2023年10月に勃発したイスラエルとハマスの戦争も7カ月以上経過した現在でも、先行きが見えない状況が続き、世界情勢は混沌としています。こうしている今でも、爆撃のため生命の危険にさらされながら暮らす多くの人々がいることに心が痛みます。これらの戦争が1日も早く終わることをお祈りするとともに、このような人道の危機を教訓とし、恒久的な平和な世界の実現のため、世界中の人々と力を合わせていきたいものです。
また、国内に目を転じれば、2024年1月1日に起こったマグニュード7.6の能登半島地震では、被災された多くの住民がまだ不自由な避難所生活を送られています。亡くなられた方々へご冥福をお祈りするとともに、被災された地域の1日も早い復旧、復興を期待します。
そのような激動する情勢のなかで新年度を迎えることになりましたが、令和6年度の初めにあたり、病院長として一言ご挨拶申し上げます。
かつて鶴岡は、庄内藩14万石の城下町として栄え、一昨年、酒井家入部400年の輝かしい年を迎えました。そのような鶴岡の地で、当院は、大正2(1913)年に東・西田川郡の組合立の病院として開院し、令和6年6月で創立111年を迎える歴史と伝統のある病院です。現在、鶴岡市と隣接する三川町、庄内町を主診療圏(人口約14.2万人)とし、酒田市、遊佐町と新潟県村上市の一部を準診療圏(人口約11.4万)とする広域医療圏をカバーしています。
当院の役割をご紹介します。平成15年に鶴岡市馬場町から現在の泉町の病院に新築移転し、26診療科、521床を有する急性期病院で、地域医療支援病院の指定を受けています。庄内地域で唯一、山形県地域周産期母子医療センターの指定をうけ、NICU、GCUをもち、小児・周産期医療に力を入れています。同時に、地域がん診療連携指定病院として、がんの治療成績の向上にも努めています。さらに、臨床研修指定病院として、毎年全国から、基幹型と協力型あわせて10名以上の初期研修医を受け入れています。救急患者数が多いことや多彩な疾患をもつ患者さんに対処できることから、救急診療が強くなり、総合的に判断できるバランスの良い研修医が毎年多く育っています。ちなみに、令和5年度の救急患者総数は1万3,811人(1日平均38人)、救急車搬送患者は4,111人で、1次、2次救急と3次救急の一部を担っています。全国の多くの研修医に研修先に選んでもらえるよう、魅力ある研修プログラムの提供を行っています。
一方、当院は免震構造や屋上ヘリポートを備えた災害拠点病院でもあり、DMAT(災害医療支援チーム)の派遣を行うなど災害医療にも力を入れています。この度の能登半島地震では、山形県の要請を受け、石川県七尾市と珠洲市で2度にわたり活動を行ってきました。
緩和ケアの取り組みも活発です。平成20年から3年間にわたって行われた厚労省の戦略研究、緩和ケア普及のための地域プロジェクト(OPTIM)に全国4地域の中から選ばれた鶴岡市、三川町では、「庄内プロジェクト」の愛称のもと、鶴岡地区医師会等と連携して緩和ケアの普及に取り組んでいます。庄内プロジェクトは、OPTIM終了後10年以上を経過した現在も、地域の多くの皆様から変わらぬ支持をいただきながら活動を続けています。この取り組みは、がん患者の在宅療養推進の面で極めて大きな成果を上げています。OPTIM開始前の平成19年の鶴岡市・三川町のがん患者の在宅死亡率はわずか5.7%でしたが、令和3年度には26.1%まで上昇しました。がん患者さんやそのご家族が、希望する場所で看取りを実現できるよう、さらなる庄内プロジェクトの質向上に努めてまいります。
一方、4年前に医療連携協定を締結した国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)との連携では、セカンドオピニオン外来である「がん相談外来」の開設を皮切りに、2022年12月にスタートした、本邦では画期的な「遠隔アシスト手術」も軌道にのっています。大腸癌ばかりでなく新たに婦人科腫瘍手術も対象に加わり、今後さらなる症例の蓄積が期待されます。地方に住んでいても先進医療の恩恵を身近に受けることが可能となりました。
また、増え続ける高齢者救急患者に対応するため、2023年5月から当院主導で、「鶴岡・田川3病院地域包括ケアパス」の運用を開始しました。この連携パスは、医療生活協同組合やまがた鶴岡協立病院、徳洲会庄内余目病院と当院の3病院がもつ急性期、回復期、そして慢性期の診療機能をそれぞれ生かしながら、高齢者の誤嚥性肺炎や尿路感染症患者の治療を病院間で分担していくものです。厚労省が進める、中核病院からの高齢者救急患者の「下り搬送」を実践するものと言えます。今後はこのパスを運用しながら、病院、診療所、介護保険施設等との連携をさらに緊密にし、地域包括ケアシステムを推進してまいります。
医療の進歩に伴い、病院の果たすべき役割、市民が求める病院の在り方も年々変化してきています。当院は、地域の中核病院としてそれらのニーズの変化に適切に対応し、地域住民が安心してこの地で生活できるよう期待に応えてまいります。「ひとを大切に、ひとの命、そしてひとの心を大切にする荘内病院」であることをモットーとし、職員一丸となって地域医療に貢献いたします。当院の運営に関して、引き続き皆さまのご理解、ご協力をお願いします。
令和6年4月
鶴岡市立荘内病院
院長 鈴木 聡