院長挨拶
院長挨拶
令和元年12月に発生した新型コロナウイルス感染症は、全国的な流行もようやく落ち着きを見せてきて、日常生活ばかりか病院内でも感染対策が緩和されるようになってきました。一方、令和4年2月のロシアのウクライナ侵攻からすでに3年、令和5年10月に勃発したイスラエルとハマスの戦争も1年半が経過した現在でも、先行きが見えない状況が続き世界情勢は混沌としています。こうしている今でも、爆撃のため生命の危険にさらされながら暮らす多くの人々がいることに心が痛みます。これらの戦争が1日も早く終わることをお祈りするとともに、このような人道の危機を教訓とし、恒久的な平和な世界を実現するため、我々に何ができるかを真剣に考えていきたいと思います。さらに、第二次アメリカ・トランプ政権の誕生など、激動する世界情勢のなかで新年度を迎えることになりましたが、令和7年度の初めにあたり、病院長として一言ご挨拶申し上げます。
かつて鶴岡は、庄内藩14万石の城下町として栄え、今年で酒井家庄内入部403年を迎えました。当院は、大正2(1913)年に東・西田川郡の組合立の病院として当地鶴岡で開院し、令和7年6月で創立112年を迎える歴史と伝統のある病院です。当院は、鶴岡市と隣接する三川町、庄内町を主診療圏(人口約14.4万人)とし、酒田市、遊佐町と新潟県村上市の一部を準診療圏(人口約11.2万)とする広域医療圏をカバーしています(令和6年3月現在)。
当院の役割をご紹介します。平成15年に鶴岡市馬場町から現在の泉町に新築移転し、28診療科、521床を有する急性期病院で、地域医療支援病院の指定を受けています。庄内地域で唯一、山形県地域周産期母子医療センターの指定を受け、NICU6床、GCU6床を有し、小児・周産期医療に力を入れています。同時に、地域がん診療連携指定病院として、がんの治療成績の向上にも努めています。さらに、臨床研修指定病院として、毎年全国から、基幹型と協力型あわせて10名以上の初期研修医を受け入れています。救急患者数が多いこと、多彩な疾患を経験できることから、救急診療が強くなり、総合的に判断できるバランスの良い研修医が多く育っています。ちなみに、令和5年度の救急患者総数は1万3,811人(1日平均38人)、救急車搬送患者は4,111人で、1次、2次救急と3次救急の一部を担っています。全国の多くの研修医に研修先に選んでもらえるよう、魅力ある研修プログラムを提供しています。
一方、当院は免震構造や屋上ヘリポートを備えた災害拠点病院としてDMAT(災害医療支援チーム)の派遣を行うなど、災害医療にも力を入れています。令和6年1月の能登半島地震では、山形県の要請を受け、石川県七尾市と珠洲市で2度にわたり活動を行いました。
緩和ケアの取り組みも活発です。平成20年から3年間にわたって行われた厚労省の戦略研究、緩和ケア普及のための地域プロジェクト(OPTIM)に全国4地域の中から選ばれた鶴岡市、三川町では、「庄内プロジェクト」の愛称のもと、鶴岡地区医師会等と連携して緩和ケアの普及に取り組んでいます。庄内プロジェクトは、OPTIM終了後15年経過した現在も、地域住民の多くの皆様から変わらぬ支持をいただきながら活動を続けており、がん患者の在宅療養支援の面で極めて大きな成果を上げています。OPTIM開始前の平成19年の鶴岡市・三川町のがん患者の在宅死亡率はわずか5.7%でしたが、令和4年度には27.5%まで上昇しました。がん患者さんやそのご家族が、希望する場所で看取りを実現できるよう、庄内プロジェクトのさらなる質向上に努めてまいります。
一方、5年前にがん診療において連携協定を締結した国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)とは、セカンドオピニオン外来である「がん相談外来」の開設を皮切りに、令和4年12月にスタートした、本邦では画期的な「遠隔アシスト手術」も軌道にのっています。対象疾患は、大腸がんの他に新たに婦人科腫瘍も加わりました。地域住民にとっては地方に住んでいても先進医療の恩恵を受けられること、病院にとっては若手外科医への教育の観点から大きなメリットを感じています。
また、増え続ける高齢者救急に対応するため、令和5年5月から「鶴岡・田川3病院地域包括ケアパス」の運用を開始しました。この連携パスは、鶴岡協立病院、徳洲会庄内余目病院と当院の3病院がもつ急性期、回復期、そして慢性期の診療機能をそれぞれ生かしながら、高齢者の誤嚥性肺炎や尿路感染症の治療を病院間で分担していくものです。厚労省が進める、中核病院からの高齢者救急患者の「下り搬送」を実践するもので、今年度から新たに診療所や介護保険施設も加わり連携の幅が広がりました。引き続き、稔りある地域包括ケアシステムの実現を目指して推進してまいります。
医療の進歩に伴い、病院の果たすべき役割、市民が求める病院の在り方も年々変化してきています。当院は、地域の中核病院としてそれらニーズの変化に適切に対応し、地域住民が安心してこの地で生活できるよう期待に応えていきます。「ひとを大切に、ひとの命、そしてひとの心を大切にする荘内病院」をモットーとし、職員一丸となって地域医療に貢献してまいります。引き続き当院の運営に関して、皆さまのご理解、ご協力をお願いします。
令和7年4月
鶴岡市立荘内病院
院長 鈴木 聡