小児外科
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- 実績
はじめに
小児外科は比較的新しい分野です。欧米では早くから小児特有の外科疾患診療を専門に診療・手術が行われていましたが、日本で小児外科が独立して診療が開始されたのは第2次世界大戦以後です。
『小児は大人のミニチュアではない』の言葉の如く、対象疾患の多くは小児独特の特徴を有しています。また、小児の中においても各年代では、独自の特徴を有するため、これに精通した小児外科専門医による手術・治療が必要です。
しかし、日本には小児外科専門医が常勤している病院は少なく、地域によってはいまだに、小児専門ではない一般外科医による手術が行われている地域もあります。幸いにも当院では1984年(昭和59年)から、新潟大学小児外科医局の医師派遣が開始され、30年以上も小児外科の専門医が診察・治療を行って現在に至ります。
現在当院は、山形県内で小児外科専門医(日本小児外科学会認定による)が常勤している3病院(山形大学、県立中央病院、当院)のひとつとして、特に県内の日本海側では唯一の小児外科専門医常勤病院として、県内のみならず、県境を越えて患者さんを受け入れ、通常の小児外科症例や新生児・外傷症例に対しても積極的に治療を行っています。
当科の特徴について
手術創部への工夫
現在、以前に比べ小児外科疾患の解明が飛躍的に進歩し、救命はもちろんですが、『いかにきれいな創部にするか』『いかに最小の手術侵襲で手術を行うか』等についても盛んに研究が進められています。一度ついた手術創は、残念ながら消えることはありません。このため、当科では積極的に腹腔鏡手術や小切開手術を導入しています。
入院環境について
当院の4階東小児病棟は、小児科・小児外科をはじめとして、14歳未満の患児が安心して治療に専念できるよう様々な工夫を凝らしてあります。また専属の保育士も配属されており、患児に付き添う親御さんの負担軽減も積極的に軽減できるよう心がけています。
そのほか
麻酔について
小児外科疾患は原則として全例全身麻酔下に手術を行います。
小児麻酔は非常に特殊な分野であり、当院では麻酔専門医の先生方が小児全身麻酔を担当しています。また、手術は患児もご両親も大変不安なものですが、当科では手術の際にはお父さん・お母さんいずれかと同伴して入室していただき、麻酔導入まで安心して一緒にすごしていただくようにしています。
小児外科疾患に特化
当院では2016年5月までは小児外科以外にも一般外科の手術・治療にも参加していましたが、対象患者さんの増加に伴い同年6月からは小児外科専門医の専従(基本的には小児外科疾患のみを診察する)病院として、新たな体制を整えることとなりました。今後はより一層多くの小児外科疾患を受け入れていきたいと考えています。
対象となる年齢
対象年齢は新生児から中学3年生(16歳未満)となっていますが、当科で手術をされた患者さんに関してはその限りではありません。
主な対象疾患
一般小児外科疾患
鼠径ヘルニア・水腫、臍ヘルニア、停留精巣(睾丸)、急性腹痛症(急性虫垂炎・腸重積症・腸炎・尿膜管遺残症)、胆道閉鎖・拡張症、胃食道逆流症、摂食・経口摂取障害、消化管ポリープ、便秘症、痔・肛門周囲膿瘍、胃-十二指腸潰瘍など
新生児疾患
先天性食道閉鎖症、先天性十二指腸・小腸・結腸閉鎖症、横隔膜ヘルニア、臍帯ヘルニア、胃破裂、壊死性腸炎、胎便性腸閉塞症、直腸肛門奇形、ヒルシュスプルング病など
救急小児外科疾患
消化管異物誤飲(コイン・おはじき・硬貨・ボタン電池など)、胸腹部外傷(交通事故等)
必要ならば他科と連携して積極的治療を行っています。
当科の治療内容について
当科では、出生直後の新生児期から手術を行っています。可能な限り病状に負担をかけないよう、細心の注意を払い手術を行います。
尚、予定手術は原則毎週火曜日に行っています。
当科で行う腹腔鏡手術の特徴について
鼠径ヘルニアに対するLPEC法
従来の手術に比べ、腹腔鏡鼠径ヘルニア手術(LPEC法といいます)は、手術創が非常にわかりにくい手術です(図1)。当院では更に創部を少なくするため単孔式手術を行っています。また、以前は女児だけを適応としていましたが、2015年からは男児にも適応を拡大しました。
(図1)
急性虫垂炎
従来の急性虫垂炎手術では、大きな醜い手術創がのこり、また術後合併症が起きやすいため、当科では早期から腹腔鏡手術を導入していました。特に近年は、急性期は抗生剤等での保存的治療を行い炎症消退後に、お臍の傷だけでできる単孔式腹腔鏡手術(図2)を積極的に行っています(待機的腹腔鏡下虫垂切除術といいます)。
(図2)
胃食道逆流症に対する腹腔鏡下噴門形成術(Nissen手術)
- 遺伝性球状赤血球症に対する腹腔鏡下脾臓摘出手術
- Hirschsprung病に対する腹腔鏡補助下pull-through手術
当科では広範囲な手術も、可能な限りポート数をへらした腹腔鏡手術を工夫しています - 直腸肛門奇型(中間位型の一部~高位型)に対する腹腔鏡補助下鎖肛手術
- その他、非触知性停留精巣・尿膜管遺残症・イレウスに対する腹腔鏡検索・手術など
通常の手術について
一度ついた創は、消えることがありません。このため、当科では患児の将来を考え、必要な手術創であっても可能な限りその整容性・縮小を目指して手術を行います。
特に皮膚は埋没縫合で丁寧に行うように心がけています。
そのほかの特徴
従来ならば手術を必要とするような疾患に対して、様々な補助療法を用いることで可能な限り手術治療を回避できるように工夫しています。
臍ヘルニア
従来は『ほっておいても治るから』とされていた臍ヘルニアですが、無治療でヘルニアがふさがった場合、お臍の皮膚が醜くたるむ『でべそ』となる可能性が高くなります。こうなると手術で形成してもきれいに治らないことが多いため、当科では以前から積極的にテープ・スポンジを用いた圧迫治療を行っています(図3)。
(図3)
漢方薬の使用
肛門周囲膿瘍、化膿性リンパ節炎、胃食道逆流症など、従来はすぐに手術などを行っていましたが、現在当科では、まず漢方薬などの内服治療を行い、可能な限り不要な手術は回避するよう心がけています。また、小児の慢性便秘症例でも緩下剤・浣腸に加えて漢方薬投与を行っています。